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太平洋型造山帯について [地質学]

1.太平洋型造山帯での新たな知見

日本列島は太平洋型造山帯として、
約5億2千万年が経過しています。
そして現在の日本は、最新の手法で地下構造や基盤岩の年代測定など、最も調査・研究が進んでいる地域になります。

その結果、この日本列島の形成史を書き換えるようなことが、新たな知見として提示されています。
ここでは、造山運動に関することに絞って述べます。


2.海溝での「構造侵食」作用とは

海溝では付加体が形成され陸の地殻が一方的に増えていくと考えられていました。
しかし、現在の日本海溝や千島海溝では、
わずかな付加体しか観測されません。

それどころか襟裳沖、室戸沖などでは、海山の沈み込みで陸側の地殻がえぐり取られ、馬蹄形に陥没している様子が観測されています。
また仙台沖の日本海溝では、
海溝軸から数十km陸側の掘削コアでは、
付加体がほとんどなく、
花崗岩地殻がむき出しになっているのが観察されています。

このようなことから、海溝では構造的に陸地殻が海洋プレートによって侵食されているのではないか、
と言われるようになりました。

地球上の海溝をそのような視点で見てみると、
ほぼ3/4の海溝では付加体が成長せず、
構造侵食が進んでいるという観測結果になりました。

なお現在、付加体が成長している南海トラフでも、
沈み込むフィリピン海プレートの上部数kmは、
海溝堆積物であるといえます。

つまり付加体が形成されながらも、
常時、構造侵食は進行しているのです。

また西南日本の地下構造を観測して見ると、
南側半分の付加体(下図の黄色以下)は、
地下のプレート境界まで、
8千万年前以降に形成された若い地殻で構成されていることが分って来ました。

また山陰帯の花崗岩(下図の濃いピンク)も8千~6千万年前の間に形成されたもので、それより古い地層はその上部に残された程度にしか存在しません。

山陽帯、領家帯の花崗岩も白亜紀のものです。

これが果たして5億2千万年分の地殻なのでしょうか。
とても考えられない少なさなのです。

西南日本断面
 以上から太平洋型造山帯とは、
付加体で地殻が成長する時期もあるが、
構造侵食で地殻が激減する時期もある、
というダイナミックな造山帯であるということが分ってきました。

なお構造侵食があったことの痕跡として、
黒瀬川帯や長門-蓮華帯などの「蛇紋岩メランジュ」があります。
蛇紋岩が地下深部からプレート境界の「和達・ベニオフ面」を上昇して来るときに、
侵食された各岩石体のかけらを採集するように取り込みながら上昇して来たようなのです。

この蛇紋岩メランジュに過去の地質体が無秩序に存在することが、構造侵食があったという証拠と考えられています。

3.太平洋型造山帯での造山運動

・平常時の造山運動

平常時には、
ある時には付加体が形成され、
火山フロントでは火成岩の地殻が形成されます。

さらに構造侵食で、
付加体から火山フロントを丸ごとふくんだ地殻を、
約1億年かけてマントルに運んでしまう時期もあります。

つまり海溝が海側に行ったり、陸側に来たりするのです。
その時に火山フロントの位置も前後に変化します。


・極大期の造山運動

太平洋型造山帯におけるクライマックスの造山運動は、
中央海嶺が海溝に沈み込んで来た時に起きます。

前掲論文のP.122 図2
中央海嶺の沈み込み
1)まず大量の「付加体」が、
沈み込んで行きます。

2)その付加体が地下で低温高圧の変成作用を受けて
「広域変成帯」となり、地下約10Kmまで隆起します。
 図の a)

3)火山フロントでは中央海嶺からの大量のマグマや融けたスラブでTTGベルト(花崗岩質の地殻)が形成され地殻が増えます。
のちに隆起すると「花崗岩バソリス」となります。
 図b)①

これは衝突型にはない、
「大陸地殻を増大させる」という、太平洋型の大きな特徴です。

4)変成帯の隆起で前弧海盆が形成され、
「前弧海盆堆積体」が形成されます。 図b)②

5)火山フロントや前弧の隆起からの土砂が大量に海溝に流れ込み、「付加体」が成長します。

6)付加体の「底付け」により、広域変成帯が正断層をともなうドーム状の隆起をします。 図b)③

以上のように、1回の中央海嶺の沈み込みで、
「付加体」
「広域変成帯」
「花崗岩バソリス帯」
「前弧海盆堆積体」
の四つが一つのセット(単元)として形成されます。


6.一単元の詳しい形成過程

①プレートの沈み込みに伴い付加体が成長します。

②たまに、1億年に1回ぐらい中央海嶺が近づいて来ると、沈み込みの角度が小さくなり、摩擦が大きくなることで、構造侵食が激しくなり、
大量の付加体が沈み込みます。

③その付加体が地下50~60Kmで「低温高圧」の広域変成を受けます。

④さらに中央海嶺の高まりそのものが沈み込んで来ることで、
変成帯は厚さ2km以下の板状で、
楔が搾り出されるように、地下10~15Kmほどの深さまで上昇してきます。

変成帯の上部は正断層、下部は逆断層になります。

⑤この上昇で、海溝と陸地の中央部を盛り上げて、
非火山性の前弧が隆起します。
この隆起の発達に応じて前弧海盆では堆積体ができます。

⑥海上まで隆起した前弧や火山フロントからの
大量の土石物が海溝に運ばれ、
付加体が急成長します。
その付加体が変成帯の下部に「底付け」され、
広域変成帯とその上下の地殻が、
じょじょに径100kmぐらいの方形ドーム状に正断層をともなう隆起をします。

⑦沈み込んだ海嶺と溶融したスラブから、
大量のマグマが供給されて、TTGが形成されます。
火山フロントではやがて花崗岩バソリス帯ができます。
巾200~300km長さ1000kmほどの規模があります。

・南米チリのタイタオ半島では、中央海嶺が沈み込んでいます。約500万年前に沈み込んだ場所は、現在の地表は花崗岩バソリスとなっています。
http://www.bing.com/search?q=チリ タイタオ半島&qs=n&form=QBRE&pq=チリ タイタオ半島&sc=0-0&sp=-1&sk=


5.変成岩の特徴は

普通の岩石が低温かつ高圧の環境下で再結晶したものです。
薄片を重ねたように平行に配列し縞模様になります。
薄くはがれやすい片理構造で「結晶片岩」といいます。

元の石により、各種の結晶片岩ができます。
砂質片岩、泥質片岩、緑色片岩,珪質片岩、大理石など。

6.各変成帯について

・三波川変成帯は、
イザナギプレートとクラプレートの中央海嶺の沈み込みに対応します。
白亜紀最前期の付加体の三宝山帯が地下で変成しました。
変成のピークは1億2千~1億1千万年前の間。
対応する花崗岩帯は、
領家帯および山陽帯の花崗岩。
前弧海盆堆積体は侵食作用でなくなったそうです。

・四万十変成帯は一番新しく
クラプレートと太平洋プレートの中央海嶺の沈み込みに対応します。
白亜紀中期の付加体の四万十帯北帯が地下で変成。
変成のピークは、7千~6千万年前。
対応する花崗岩帯は、
山陰帯の花崗岩。
前弧海盆堆積体は和泉層群です。
・周防変成帯

・長門-蓮華帯や黒瀬川帯の蛇紋岩メランジュに含まれる変成岩

など、現在の日本列島では、5~6つの変成帯があったことが確認されています。
つまり5~6回の中央海嶺の沈み込みが過去にあったことになります。


7.現在の日本でのステージ


現在、広域変成帯が隆起しているのは紀伊半島南部や、
四国中部です。

特に大和大峯山地の地域はドーム状の大隆起地帯です。
また、南紀白浜地域から観察される、この6千年間の上昇速度は年2~3mmで、
これは衝突型造山帯である
ヒマラヤや台湾などと同じレベルです。
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