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中国語の軽読と重読 [現代漢語]

中国語も自然な発音が身に付いてくると、
ピンインの表記が不自然に感じることがありませんか?

それは自然な発音には、
「軽読、重読」(軽念、重念ともいう)があるからです。
これは「強弱のアクセント」のことなのです。


1. 「アクセント」とは?

その言語において習慣的に決まっている
相対的な高低や強弱の配置のことです。

英語、ドイツ語などの「強弱アクセント」
日本語、中国語などの「高低アクセント」
の二種があります。
(このなかの「強アクセント」のことをとくに「ストレス」とも言います。)


2. 中国語のアクセントは?

中国語のアクセントは「高低アクセント」で、
皆さんご存知の「四声」、「声調」のことです。
「軽声」はこの声調が失われたものです。

さらに、「軽読、重読」という「強弱のアクセント」
も存在するのです。
しかし、入門段階での煩雑さを軽減するためか、
この点に関して書かれている入門書などは皆無です。

もっとも、この「強弱のアクセント」は、発音や聞き取り練習を重ねるうちに自然と体得できているものだ、ともいえます。

このあまり言及されない「軽読、重読」ですが、
現実に存在しているのですから、
辞書においてはきちんと表記をする必要があります。

そのことを「中国社会科学院言語研究所」で編纂された
「现代汉语词典 」の巻頭にある「凡例」の「注音」の項目で見ていきましょう。


3. 「 知道 zhī・dào 」 このピンイン表記の意味は?

凡例 11.を翻訳しました。
「ふつうには軽読、時として重読する文字。ピンインの上に声調符号をつける、ピンインの前に点を加える。

例 「  因为 yīn・wèi 」
この「为」の文字は普通には軽読、ある時には4声で読んでもよい。」

にあたります。

つまりこの「知道」の「道」は完全な軽声ではなくて、軽読になるのです。


4. 「軽読、重読」とは?

軽読とは、その文字(漢字)を軽く読む、弱く発音するのですが、声調を変えて読んではいけません。
この声調を変えない点が軽声とは異なります。

重読は軽読の反対で強めに、はっきりと発音します。
このときも声調を変えて読んではいけません。

最近のNHKの講座でも、まず聞かない文法用語です。
私は陈文芷老师のラジオ講座で習いました。(年がばれる?^^)

陈老师が朗読の参考書を出しています。
『挑戦!朗読中国語』陳文芷著 NHK出版
http://sckobe.exblog.jp/3852941/


5. その他の例は?

凡例 12. を翻訳します。

「その他の成分が入ったときに、軽重の変化がある語句には、声調記号と前に点、さらに二重斜線を加える。

例 「 看见  kàn//・jiàn 」
  「 起来 qǐ//・lái  」 この「见」と「来」は軽読です。

「看得见、看不见」
「起得来、起不来」 この「见」と「来」は重読です。


「起来」にはさらに 「//・qǐ//・lái 」の表記があります。

これは動詞や形容詞の後ろにつく補語になっていることを示しています。

例 「拿起来」 「好起来」 この 「起来」は軽読です。

これに「得や不」が入ると変化します。

例 「拿得起来、拿不起来」 この 「起来」は重読です。

この「起来」の間にさらに宾语(目的語、連用修飾語)が入ると

例 「拿得起枪来」  「拿不起枪来」

 この「起」は重読で、「来」は軽読になります。

「上来」 「上去」 「下来」 「下去」 「出来」 「出去」

などもすべて同じように変化します。注音記号も同じです。


6. 日本で発行されている辞書では?


私が手元に持っている辞書は、

「岩波 中国語辞典 簡体字版」

「中日大辞典 (増訂第二版)」 愛知大学

「中日辞典」 講談社

「现代汉语词典 2002年增补本」 です。

このうち日本発行の3冊を各辞書ごとに見てみましょう。

  
  「岩波 中国語辞典」

この辞書は、天才的なリスニング能力を持っていた

倉石武四郎氏が著者で、

北京語がとくに詳しく取り上げられています。

入門から中級までは、用例が多くて役に立ちます。

難点は最近の新しい単語が収録されていないことです。

単語の配列がピンインのA,B,C順という、

ほかに類のない特徴を持っています。

私がもっとも愛用した辞書でもあります。


「序説」の10で

「・・・「軽声」にも、固有の「声調」をほとんど失ったものと、

なおある程度これを保留しているものとがある・・・」

このように「軽読」の存在を述べています。さらに、

「一つの語が文のなかに用いられたとき、
文の硬さ軟らかさに応じて、「軽声」の程度に変化の起こることがある。

たとえば、guānxi (关系)という語が普通の会話で用いられるときは、xi は「軽声」になるが、もし、guānxì zhòngdà!(关系重大!)のようにおもおもしく言されるときは「軽声」化しない。

この辞書ではこれらの差についていちいち取り上げていない。」

このように「軽読、重読」の存在があることを明記されていますが、「軽読、重読」としての説明はありません。


辞書の注音記号としては、

「凡例」1見出し語 (9)で

「・・・やや「軽声」に近い音節は、普通の体のローマ字を用いながら、「声調符号」を加えた。」

とあるように、「軽読」の文字(漢字)が分るようにピンイン表記に工夫がされています。

しかし、「现代汉语词典」とは少し違いがあります。


   「中日大辞典」 愛知大学

収録単語数が約15万語と多いので、本を読むときの単語調べにとても役に立ちます。

現在は第三版が2010年2月に刊行されています。


凡例 7. 見出し語の注音 B)軽声の処理 より、

軽声の処理は段階にわけ、

①場合により軽声となる程度のもの

②常に軽声に発せられるもの

③常に軽声に発せられるもの(語気助詞、接尾字など)

このようにすべて軽声で分類し、「軽読、重読」については書かれていません。


   「中日辞典」 講談社

コラムで発音のゆれなどについて書かれていて、興味深い内容です。

凡例 発音表示などについて より、

4 (b)ふつうは軽声に発音されるが、時によっては本来の声調にも発音される場合、ともに ; で区切って併記した。

この辞書でも、軽声については説明されていますが、
「軽読、重読」については書かれていません。


・私はこの4冊の辞書での
何個かの単語のピンイン表記の違いを一覧表にしてみたのですが、かなり煩雑になり、理解しにくいと思うのでここには書きません。

ただ、一覧にしたものを見て言えることは、

出来れば辞書は2,3冊以上を読み比べるのが良いということです。
それぞれの辞書には得手、不得手があるようですから。

その点から言えば、電子辞書の串刺し検索「ディクショナリーリンク機能」等はとても有効な機能であるといえます。

しかし、なぜ「现代汉语词典」に明確に書かれていることが日本の辞書に書かれていないのか不思議です。

なお、各辞書でピンイン表記のきまりが違うので、
一度は凡例に目を通しておきましょう。


7. 電子辞書の発音では?

私の使用している電子辞書は、
「キャノン ワードタンク V903 」で発音が聞けるのは、

「中日大辞典 (増訂第二版)」 愛知大学

「中日辞典」 講談社  の二冊だけです。

この二冊を聞き比べてみましょう。


  「中日大辞典 (増訂第二版)」

この辞書で軽声になる単語のうち、
「①」の単語は軽声に発音せずに、
声調通りに発音しています。

「②、③」の常に軽声の単語と、
語気助詞や接尾字がついて軽声になる単語が、
軽声の発音になっています。

しかし「现代汉语词典」で軽読になる単語は、
軽読にはならず、
声調通りに発音しています。


  「中日辞典」 講談社

この辞書では、軽声になる単語では、
軽声での発音と声調通りの発音の、
複数の発音を聞くことができます。

例 「 因为 yīn・wei ; yīn・wèi 」 

しかし、軽読の発音はありません。

やはり「现代汉语词典」の発音がないのが残念です。

皆さんのお持ちの電子辞書ではどうでしょうか?
ぜひご意見をお聞かせ下さい。


8. 陈文芷老师のラジオ講座での練習は?

1980年代の陈老师の講座は応用編で、上級に近い中級以上の内容でした。

陈老师は流暢な日本語を話されますが、この講座では中国語のみ使用して講義をして、それを通訳する日本人の斎藤泰治先生がいる、という形式でした。

「自由谈话」のコーナーでは、
播音员の方も普段のしゃべり方になって、
台本通りでない、とても自然な中国語を聞くことができました。

講座では、
すでにここで述べた補語になる場合の軽読や重読のほかに、一つの文の中での「軽読、重読」の練習問題がありました。

初めに陈文芷老师の講義の一部を紹介します。

什么叫‘重读’我还没有讲。

我们念一句话的时候,绝不是每一个字都是一样高,
一样长,一样清楚的。

如果你们注意的话,就会发现一句话里边有的地方很清楚,有的地方略带而过。

念得清楚的地方就叫‘重读’,略带而过的地方可以叫‘轻读’。

日訳

何を「重読」というのかまだ言っていませんでした。

私たちが一つの文を読むとき、すべての漢字を同じような高さ、同じような長さ、同じようにはっきりとは読みません。

もし皆さんが注意していたなら、一つの文の中であるところははっきりと、あるところはさっと読んでいることにすぐに気がつくでしょう。

このはっきりと読んだところを「重読」、さっと読んでいるところを「軽読」と言えるでしょう。

例句

名字也是一种标志,在性别方面特别是这样。

名前もまたある種の記号です、性別の面では特にそうです。

講義

状语是应该重读的,可是有时在同一语句话中出现几个状语不能全重读。就需要从意思上分析后决定主次。

比如‘在性别方面’比‘特别’更重要,要重读。

日訳

状語(動詞、形容詞の前で状態、程度、時間、場所などを表す修飾成分。連用修飾語)は重読すべきですが、同じ一つの文中に何個かの状語がある場合はすべてを重読できません。意味のうえから分析して主、副を決めるのです。

たとえば「在性别方面」は「特别」よりも重要ですので重読します。


・さらに講座では、「軽読、重読」以外にも、一つの文を読むときに、どこで「停頓」や息継ぎをするべきなのかなど、文章を読むときに注意すべき「中国語朗読のテクニック」を総合的に講義されています。

興味がありましたら、前述の参考書を読んでみてください。


 以上でこのノートを終わります。

機会がありましたら改めて、陈文芷老师の講義の内容などを書かさせていただきます。


多谢各位阅读!
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